熱函(NETSUBAKO)

Let her insult me. Let her spit on me. She has an immortal soul, and I must do all that is in my power to save it.

まだ最終4巻買ってないけど『とっかぶ』の話

 good!アフタヌーンでこないだまで連載していた『とっかぶ』(桑原太矩)というマンガが単行本全四巻で完結したんですが、打ち切りを免れてほしい一心で一年半も本誌のアンケートを送り続けたぐらいに好きだったということをまず書き残しておきたい。twitter日本橋ヨヲコの「漫画家応援するには単行本もだけど雑誌掲載時の反響」みたいなつぶやきを見て「じゃあ買い支えよう」と思ったのがきっかけ。『少女ファイト』は途中で買わなくなっちゃったけど(ストイックさに振り落とされた。断食やってるところまではとても好きだった)。


 何が面白いのか、みたいなことをひとに説明するのは難しいのだけれど、「幸福が描かれているから」以外に思いつく言葉がなかった。
 特別課外活動部っていう一種の懲罰グループみたいなのがあって、主要キャラ三人がそこに所属してるんですけど、ひとりは物好きにも自主的に入部、ひとりはイタズラの度が過ぎて、ひとりは素行不良だけど直接の原因は他人をかばってと、人を傷つけるような人間はいないんですよ。基本的にはトラブルにとっかぶが首をつっこんでドタバタやりつつ収拾つけるという様式なんですが、食い逃げ犯がいれば闇討ちかける奴もいて、でもそいつらも憎むような「悪人」じゃない。ヒロイン(?)のサワはヒーローに憧れてるけど人をイラつかせる「正義」は振りかざさない。なにかにつけてユルいというのが恐らく一つのウリである。


 もっと言えば80年代マンガのリバイバルというか、えーと、単行本二巻に文化部が団結してハンガーストライキをする回があるんですけど、強烈な「あ~る」感というか。講談社のマンガですけど全体的にサンデーチルドレンな感じがする(偏見)。今日び、草野球回で月刊連載二話使うマンガなんてそうそうないですよ。あ、草野球のチーム名が「ピローズ」対「グッドドリームス」で分かりやすく作者はthe pillowsファンです。そのままずばり「空中レジスター」ってタイトルの回も確かあった。


 何がいいのかって多分登場人物の絶妙な距離感で、分かりやすく他人に踏み込まない、なんとなく察してそれとなくフォローする、そういう空気や間の作り方がとても上手いと思う。後、表情芝居の使い方。サワちゃんがうなぎの蒲焼に失敗する回(???)、困り眉で笑って見せているけれど、読んでいて「うわー、すげえ泣きそうな顔だ」って思わせるところとか。基本的に表情がコロコロ変わってみんなかわいいんですよ。たまのシリアスでも基本笑い顔で、でもときたまこちらがドキっとするくらい大人びて見えたりする。これはマンガ的強みです。


 これは言っていいのかどうか分かりかねるけれど、終盤はいわゆる打ち切りが決まったんだろうなあと感じさせる展開で回収されていない演出や伏線もあるんだけど、最後はお祭りで〆、という王道を突き進むのに文句を挟む余地はなし。サワがマンガの最後で戦った相手は突拍子もないようでいて、しかし「ヒーローになったサワの相手」としたらそれしかないよな、などとも思う。ネタバレになるので言いません。


 "ちょっぴりユルいテイストの放課後ディテクティブ・ストーリー"という文句にソワソワするようなら買ってみてはどうでしょうか。『とっかぶ』、とても好きなマンガです。

 

とっかぶ(4)<完> (アフタヌーンKC)

とっかぶ(4)<完> (アフタヌーンKC)

 

 追記:Amazonレビューに「もっと無茶苦茶なドタバタコメディ風にするか~」みたいなこと書いてありますがそれじゃあだいなしだよと強く思った。パンチの軽さがいいのです。ある意味で青春の無駄とか無力さの表れでもあり、しかしそれは無駄なことなんかじゃないという。ナイーヴすぎずお題目でもなく、少年少女の淡いをさ、叙情じゃなくさらっと描いてるのがさ。膝をすりむいたりして痛くても高校生は平気な顔してるし、でもやっぱり痛いし、隣のあいつは「転んだ膝まだ痛いんだろうなー」と思いつつ特段触れずに昼飯買いに行ったりとか(意味不明)(こういうエピソードは本編にはありません)(個人的なおセンチ)。