いかにして俺はWUGに出会わなかったのか
このエントリの発端は山本寛のブログを読んだからだけれど、それに関する話はしない。
Wake Up,Girls!のライブにはまったのは、HOMEツアーpart1、大宮公演に誘われたから。それは以前のブログにも書いた。けれど、正確にはWUGの現場はそれが2回目だった。2017年、わたしはWUGのライブに足を運んでいる。すなわち、わたしはファーストインプレッションでWUGが刺さりはしなかった。自分の気持ちを整理するためにこのエントリを記す。
声優現場に対する偏見と抵抗
2017年2月。イオンレイクタウンでにぎわい東北 presents Wake Up, Girls!in レイクタウン ミニライブ&お渡し会が開催された。わたしの自宅から自転車で行ける距離で、無料観覧できるという。その時わたしは七人のアイドル、TV版、青春の影、Beyond the Bottomを見ていたし、Wake Up, Best!1、2ともに聞き込んでいた。さらに言えば当時の最新シングル「僕らのフロンティア」も持っていた。WUGのことは既に知っていたし、楽曲がいいとも思っていた。だから足を運んだ。
会場はレイクタウン1階の吹き抜けスペースで、わたしは3階にいた。1階から3階まで200人ほどいただろうか。その時感じたのは「こんなものか」と「大丈夫そうだな」だった。前者は、無料観覧で混乱が起きるほどの動員がかかることはないという現状、後者は、こんな地の果てみたいなショッピングモールに朝早くからこれだけ集まるなら十分ファンは根付いているんだろうな、という安堵だった。
【イベント情報:3/4「にぎわい東北」Wake Up, Girls!in レイクタウン】
— Wake Up, Girls!公式 (@wakeupgirls_PR) March 4, 2017
後ほど10:30よりイベントステージスタートです!
ご来場の皆さま、もうしばらくお待ちくださいね!
※CD購入整理券の配布は既に終了しております#WUG_JP pic.twitter.com/TYMFrAtRrP
HIGAWARI PRINCESSと7 Girls War が披露された記憶があるが、セットリストをみるとタチアガレと極スマもやったようだ。ライブパフォーマンス自体は「ああ、いいものみたな」と思ったのを覚えている。
そこで、いわゆる「ワグナー」にならなかったのにはいくつか理由がある。1つは、衝撃を受けるほどの出来ではなかったこと。2つは、ファンがちゃんとついて軌道に乗っているミュージシャンを応援しようと思わない自分のスタンス(売れないミュージシャンが好きで下北沢がホーム)。3つは、ファンの振る舞いだった。
1Fのステージ前にはパイプ椅子で観客席が設けられていて、整理券を持っている人はいい場所で観覧できる仕組みだった。入場開始とともに、猛然とかけてきた数名がパイプ椅子に突っ込んで倒れていた。それを3Fから見ていたわたしは「これだからオタクは」と嫌悪感を覚えた。
声優のライブを見たのは2015年のアニメ紅白以来で、そこが比較的大人しいイベントだったから、落差を感じたのも本当だ。自分自身、竹達彩奈の「ライスとぅーミートゆー」でコールを入れていたので(ここでコールを入れるよな、というのは音源を聴いていて分かった)声優ファンの気持ちは分からないではなかったけれど、転倒するオタクを見て、社会性を犠牲にしてまでやりたかねえやな、ああいうのはちょっと、というのが嘘偽らざる感想だ。
だから、HOMEツアーに誘われ東武野田線で大宮に向かっている間も、内心は怯えていた。ああいう層がワグナーのメインだったらどうしよう。ライブは楽しみだ、でもそれ以外の部分で不愉快な気持ちになったらどうしよう、と不安だった。チケットをくれた友人を信用していたからこそで、そうでなければチケットをもらってもいかなかったかもしれない。
安泰という誤解
その後、恋?で愛?で暴君です!を購入するなど在宅オタクとしては変わらず過ごしていた。2018年5月にも、前述の友人にGreen Leaves Fesへの参加を勧められていたものの、当時は高橋徹也やthe MADRAS、果ては西早稲田に店を構えたthe pillowsの元サポートベース鈴木淳などを追うのに手いっぱいで、結局見送った。
その時はオタクがどうという話は忘れかけていて、むしろメジャーなグループを応援しなくても、という気持ちの方が強かった。
当時、それほど真剣に追いかけていなかったわたしから見たWUGは、ラブライブ!、アイドルマスターの後塵を拝する第三極だった。新章の商業的・作品的失敗は耳にしていたけれど、山本寛を下ろしてもアニメをはじめとする各方面への展開は継続する姿勢、他アニメへのタイアップで、他のコンテンツと違い、まさにアイドルとしてアニメ業界にポジションを取りに行く新たなアプローチ、楽天主催試合でのコラボ(プロ野球ファンからすれば、始球式に登場する声優が所属するグループが落ち目にあるとは思えない)、さらに単独イベントGreen Leaves Fesが開催できることそのもの、それらを総合して、後2年は続くコンテンツだと思っていた。キャパが200人のライブハウスを埋めるミュージシャンを「人気」と思う人間は、幕張メッセのイベントホールを使うユニットを「大人気」と思ったのだ。というか、普通に考えて、新アニメ放映終了半年もたたずに解散するのを誰が予想できるのか。
わたしはワグナーを自認する前、ライブ以外にも、WUGのメンバーが登壇するイベントを見たこともある。彼女たちはゲストとして立派に振舞っていたし、その印象も強かった。これからもっと大きくなると思ったし、それがWUGの成長にもつながると思った。それは半分正解で、半分間違っていた。
WUG解散……?
— スーパービュー尾瀬みさき (@sawaon) June 15, 2018
5月のライブに行っておくべきだったんやなって……
— スーパービュー尾瀬みさき (@sawaon) June 15, 2018
七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つのアイドル、Wake Up,Girls!
— スーパービュー尾瀬みさき (@sawaon) June 15, 2018
この時点でわたしはワグナーではない。それでもうろたえるのだから、熱心なワグナーの狼狽は計り知れない。
だが、直後にライブのチケットを探すことはしなかったし、HOMEツアーの存在も知らなかった。「結局間に合わなかった、自分は乗り遅れたコンテンツ」がこの時のWUGだった。
オオカミとピアノ
話が前後するが、わたしがWUGの楽曲を知ったのは山下七海さんがオオカミとピアノをカラオケで歌う動画だった。細い、かわいい、しなやか、あざとい、完成度が高い。曲もものすごくキャッチーで、楽曲派ではないけれど、山下七海と田中秀和のコンビが自分にとってのWUGの原点だった。ライブにこそ引き込まなかったが、これがなければWUGのアニメを見ることはなかったろうと思う。
不安を抱えて臨んだ大宮公演、ペンライトも持っていないので、ビジター応援席に迷い込んだような気分でいた。友人が(今思い返すと彼には頭があがらない)ペンライトを貸してくれて、ようやくファンを装えそうだ、ぐらいに思っていた。
中盤、キャラソンメドレーがはじまった。どれもBestに収録されていたので知っていた。だが、演者がソニックシティの通路に出て歌うのは知らなかった。
オオカミとピアノ。山下七海が通路で歌っている。
「シャンシャンシャンシャン!!」
ろくにコールも覚えてこなかったわたしが絶叫した瞬間だった。たがが外れた。その後は1番でコールを理解し2番に間に合わせるという形でライブに参加した。終演後、来てよかった、来るべきだったと笑顔で思った。夜公演のチケットもなければその後のツアーのチケットもないのに、物販でワグナーブレードを買った。帰ってわぐらぶに入会申し込みをした。レイクタウンで見た時は「吉岡茉祐は歌が力強いな、青山吉能は綺麗で上手だな」と推しも決まっていなかったのに、俺の推しはななみんだ!と理解した。
タチアガレとライジングテーマ
こんなすごい舞台を見逃してはいけない。そう強く思ったのは間違いない。それはWUGの、そしてななみんのパワーだった。だが、それだけがHOMEツアーに後追いで参戦した理由ではない。WUGのことを調べるうちに、解散とファイナルツアーがどうやら負け戦であるということを悟ったからだ。
わたしは横浜ベイスターズを応援するようになってそろそろ10年になる。10年前、TBSフロント時代のベイスターズは暗黒そのものだった。金はあってもやる気のないフロント、外れるドラフトと補強、改善されない投壊、主力選手の喧嘩別れに近い流出、果ては身売り騒動。実を言えば、どうしようもなく弱かったからこそ、わたしはベイスターズファンになった。これより下はない、後は上がり目だけ。1試合でも勝てば嬉しい。はません(5chの野球板のベイスターズ実況スレ)では勝利すると「横浜優勝!」の文字。いつのころからか「優勝を更新」という言葉が演者から聞かれるようになったが、わたしには、まるでベイスターズの1つの結末であるかのようにオーバーラップして見えた。
横浜ベイスターズには、通称やけくそチャンテと呼ばれるライジングテーマがある(現在は3点差程度の終盤ビハインドでも使用)。
レッツゴーベイ 不器用で かっこ悪くても
選手を信じ 声を枯らし
レッツゴーベイ 変えてゆく 俺たちが変える
想いよ届け 君のもとへ熱く!熱く!熱く!立ち上がれ!!
このエントリを書いた最大の理由がこれだ。WUGが負けたユニットだからこそ応援する気になった。WUGが失敗したプロジェクトだからこそHOMEツアーに自分がいる。コールを、大敗時のヤケクソの気分で、すがる思いで叫ぶライジングテーマのように思っていた。ツアーは楽しかった。誰もが初対面のワグナーはいい人ばかりだった。MIXやクソコールに苛立ちつつもだんだんと「まあ少しぐらいは」と許容できるようになっていった。それでもいつも引け目があった。俺は純粋な気持ちでWUGのファンでいるのではないと。
みゅーちゃんの手紙に救われた気がしたSSA
それでもツアーは優勝を更新し続けたし、WUGちゃん優勝したぞ!という高揚感があった。仙台も、当初は1日目だけの予定を、粘って2日目昼の当日券で参戦した。
そして迎えた3月8日。ライブの感想は以前のエントリに書いた通りだ。
自分の中にあるわだかまりをほどいてくれたのは、みゅーちゃんの手紙だった。ありがとうの手紙。実を言うと、ほとんど内容を覚えちゃいないのだ。ただ、WUGにかかわったあらゆるものごとへの感謝を、いつも笑顔のみゅーちゃんが言うのを聞いて、何故だかもう涙が止まらなかった。
WUGが幸福な、理不尽のない、思い描いた理想の姿であったならば、俺はきっとこの場にいない。君達の青春の蹉跌の果てにこそ俺はワグナーでいる。そんな自分でも、この場所にいていいんだ、追いかけてきてよかったのだと、許しをもらえた気がした。
Wake Up,Girls!は、本来意図しなかったであろう負のハイパーリンクによって、劇中の彼女たちと同じく苦難を強いられた(らしい)。アニメーションのWUGと声優ユニットのWUG、両軸だったはずのそれを一身に背負った彼女たちは、「優勝を更新」「WUG最高!」「明日のことは考えない!」とすさまじいパワーでプロジェクトの結末を最高の景色に塗り替えた。その在り方で、彼女たちにとって最良のファンではないわたしも肯定された気がしたのだ。
親しい人の訃報を、葬儀を終えてしばらくして、人づてに聞いた過去がある。あの時の現実感のなさといったらなかった。だから、生きているうちに、動いているうちに、会える人に会う、行ける場所に行く、そうしようと思っていた。けれど、WUGでわたしはそれを実践できなかった。興味があるのにライブに行こうと思わなかった。詳しく知ろうともしなかった。
だからこそ、SSAの、エクセトラの、おまけの、余生の、すべての決着がついた後のステージを観られて本当によかったと思う。そして彼女たちは生きている。
東北には行きたくなかった。父方の田舎である二本松にいい思い出がないからだ。けれど、WUGは福島を超えて仙台、盛岡まで引っ張ってくれた。イーハトーヴシンガーズの演奏を聞きに今年再び盛岡には行くつもりだ。仙台の聖地巡礼も済ませていない。二本松にも寄れたらいいと思う。
ななみんのラジオの第2回が控えている。エビストの交代メンバーとして加入したななみんはアウェーらしいので、チケットが取れたら公演に行きたい。まゆしぃの舞台も、お金があれば行きたい。青山吉能の機関車トーマスは、7 Girls Warでクソコールを入れてしまった手前見に行けなければならないだろう。かやたんのずーぱらもそうだ。みゅーちゃんのDJイベントの開催を待っている。セファンだからあいちゃんの楽天トークはフラットに聞ける。みにゃみのファイブスターズは水曜日の帰路の楽しみだ。
Wake Up,Girls!は優勝した。その優勝の軌跡には、あまたの敗北が横たわっている。その敗北の側にわたしはいる。それでもWUGは勝利も敗北も、幸福も不幸もすべてひっくるめて「優勝」と言ったのだ。わたしにとってその言葉は、今話したぐらいの意味合いだ。